杉本庸 医師の経歴
1991年 | 広島大学医学部 | 卒 業 |
1991年 | 神戸大学 第二外科学教室 | 入 局 |
1998年 | 神戸大学 大学院 | 卒 業 |
1998年 | 神戸大学 形成外科学教室 | 入 局 |
2005年 | 神戸大学医学部附属病院 形成外科 | 臨床 助手 |
2009年 | 神戸大学大学院 美容医科学 | 特命准教授 |
2012年 | 神戸大学医学部附属病院 美容外科 | 非常勤講師 |
2021年 | 杉本美容形成外科 | 院長 就任 |

ここからはまぶたのクリニックの編集部である私が、実際に医療脱毛の論文について解説していきます。
医療脱毛後に起こる“硬毛化”とは何か
医療脱毛の1つであるレーザー脱毛は、1990年代の終わり頃に登場し、現在では主流の脱毛方法です。
レーザー脱毛は、広範囲の脱毛が短時間でできる・電気脱毛に比べて疾痛が少ないこと・施術に高度な技術を要さないことなど、施術側・患者側の双方に利点があります。
硬毛化とは、医療脱毛後に毛が太く・濃くなる現象のことです。
患者側としては、減毛目的のレーザー脱毛で起こる予期せぬ副作用と考えられがちですが、専門家の間では、硬毛化は特徴的な合併症の1つとして認知されてます。
日本国内での報告例は少ないものの、海外では硬毛化の事例が複数報告されています。
硬毛化は、レーザーの種類・機器に限定されないことは分かっていますが、原因は不明であるため、解決策・予防策については今後の研究が待たれるというのが現状です。
【硬毛化症例】22歳男性の医療脱毛に起きた異常反応とは
レーザー脱毛を希望する22歳男性に起きた硬毛化症例を紹介します。
内容 | 詳細 |
---|---|
主訴 | 上腕~肩部にかけての脱毛を希望 |
施術内容 | 脱毛希望部位に対し、ロングパルスアレキサンドライトレーザーによるレーザー脱毛を行う |
施術詳細 | φ18mmパルス幅3msec、,照射エネルギー14J/cm2、DCD(冷却装置)30/20で、2~3カ月間隔で照射を行う |
合併症 | 計4回照射を行ったところ、硬毛化の症状を確認 |
対応策 | 照射エネルギーを18J/cm2に変更し、3~4週間間隔で照射を行う |
対応策の結果 | 計5回の追加照射で、減毛化・軟毛化が認められた |
【考察】医療脱毛で硬毛化が発生しやすい部位とアジア人のリスクについて
硬毛化の原因は特定されていませんが、硬毛化が起こりやすい部位・起こりやすい人の特徴についての傾向が明らかになりつつあります。
内容 | 詳細 |
---|---|
硬毛化が起こりやすい部位 | 頬部・下顎部・襟足~上背部・上腕部 |
硬毛化が起こりやすい人の特徴 | スキンタイプIV(皮膚の色が淡褐色で、紫外線により皮膚色が濃くなる)に該当するアジア人種 |
硬毛化が起こりやすい部位は、頬部・下顎部などがあり、日本国内の22歳男性の症例においては上腕部が一致します。
硬毛化が起こりやすい人の特徴では、海外研究者が報告した全例においてスキンタイプIVであったという事実から、硬毛化は患者の肌色・肌質と関連があると考えられます。
日本人の患者が、硬毛化が起こりやすい部位を希望する場合は、インフォームドコンセントを果たす必要があります。
医療脱毛における硬毛化の発生率データ
以下は、医療脱毛における硬毛化の発生率を示したデータです。
報告者 | 対象人数 | 硬毛化症例数 | 使用機器/特徴 |
---|---|---|---|
Vlachos氏など (2002年) | 不明/単一患者の事例 | 初報告 | IPL(光治療)における初の事例 |
Alajlan氏など (2005年) | 489例 | 3例 | アレキサンドライトレーザー/スキンタイプIV |
Willey氏など (2007年) | 543例 | 57例 | 各種レーザー・IPL使用/タイプ問わず発生 |
医療脱毛でなぜ硬毛化が起こるのか?仮説とメカニズム
医療脱毛において硬毛化が起きる原因として提唱される仮説の中に、heat shock protein 27(HSP27)の誘導説があります。
レーザー脱毛によりヒートショックプロテインのレベルが上昇し、毛髪の成長に重要な役割を果たす毛包幹細胞の成長が促進されるのではないかと考えられています。
しかしながら、医療脱毛における硬毛化の正確な原因は、未だ明らかになっていません。
医療脱毛による硬毛化の予防策・改善するための施術戦略
硬毛化の予防策・対処法は確立されていません。
しかし、硬毛化の症状があった場合は、以下のいずれかの方法で症状を改善できる可能性があります。
- レーザー出力やパルス幅の調整
- レーザー機種や照射方法の変更
ただし、硬毛化は特定の種類のレーザー・機器に起因するものではないと考えられています。
日本国内の22歳男性の硬毛化症例では、上記の方法で実際に減毛化・軟毛化が確認されています。
上記の方法で改善されなかった場合は、電気脱毛に変更するのも有効です。
硬毛化の最終的な対処法としては、電気脱毛法に頼らざるを得ない状況があり、医療脱毛において今後の研究課題と言えるでしょう。
医療脱毛における脱毛部位に応じたリスク評価とインフォームドコンセントの重要性
医療脱毛における硬毛化の原因は不明であるため、有効な予防策・改善策が確立されていません。
しかし、硬毛化になりやすい部位の傾向は掴めており、日本人は肌質の特徴から硬毛化の症状が出るリスクがあることも分かっています。
以上の状況を踏まえ、硬毛化が起こりやすいと考えられる頬部、下顎部などでレーザー脱毛を行う際は、インフォームドコンセントを果たすことが非常に重要です。
具体的には、硬毛化が発生する可能性とその対処の難しさについて十分に説明し、患者の理解・同意を得ます。
インフォームドコンセントや発症後の十分な対処が困難な施設では、硬毛化が起こりやすい部位についてはレーザー脱毛を行わないという選択肢も検討すべきでしょう。
本症例から学ぶ!医療脱毛を行う施設に求められる役割とは
レーザー脱毛は、広範囲の処理が短時間で可能であること・電気脱毛法に比べて痛みが少ないことなどを理由に、有効な医療脱毛方法として社会的に認知されています。
しかしながら、医療脱毛には硬毛化などの合併症が起こるリスクがあるため、安全・手軽だけではないという理解が必要です。
医療脱毛を行う施設は、合併症のリスクを十分に理解し、適切に対応できる体制を構築することが強く求められます。
また、患者に対してインフォームドコンセントを果たし、医療トラブルによる社会的信頼の失墜という事態は避けなくてはなりません。
医療脱毛による硬毛化の原因特定の研究が進むとともに、レーザー脱毛を行う施設の対応力の向上も求められています。
また、当院では当記事で解説した論文を参考に以下の記事を公開しています。
医療脱毛に関する専門的な知識を深めるため、臨床結果・医療技術に関する具体的な事例も学び取り入れた上で、最新の研究論文・臨床試験データに基づいて信頼性の高いコンテンツの作成に努めています。
このように、当院では信頼のおける学術誌で発表された論文等を参考に、クリニック選びの実践的なアドバイス・治療内容の解説をしております。